木熊野と名づけられた神社は市内にいくつかありますが、すべてここ中村町の木熊野神社からの分霊といわれています。ここは、中村町の産土神(うぶすながみ)で、十二社権現または梛(なぎ)の宮と
呼ばれていました。木熊野は紀伊熊野の意味で、もともとは熊野権現であったのを、明治の神仏分離令によって木熊野と改称、登録されました。
境内には珍しいナギの群落があります。ナギは、熊野地方で神木とされる木で、祭神にゆかりの深い紀州(和歌山県)から移植されました。マキ科の常緑高木であるナギは、20mくらいまでのび、葉には光沢があります。古くから悪魔を払い災難をのがれることができ、さらには病気の治癒にも霊験があると信じられてきました。
この神社に伝えられる珍しい神事は県の無形民俗文化財に指定されています。また、拝殿に奉納されている算額は現代数学でも通用する方程式が書かれているもので、市の有形文化財に指定されています。
木熊野神社の特殊神事(県の無形民俗文化財)
木熊野神社の秋祭りでは、昔ながらのしきたりにのっとった珍しい神事が行われています。祭の7日前の「シオカワ神事」は、頭屋(とうや)の家に神主が来て御幣(ごへい)を切り、餅をつき、甘酒を神社
まで持っていきます。神社では社前の湧き水に神主や頭屋の主人などが素裸で入り身を清め、祭具を洗います。祭りの前日には、頭屋の家に御神屋(ごしんや)を設け神社からの神輿を迎えます。神輿は祭り当日に頭屋を出てお旅所(たびしょ)に向かいます。ご神体は、オンユルワと呼ばれる小桶の中に入れた玄米で、お旅所で神主の手によって神輿の中に納められます。ここで献饌(けんせん)の儀や獅子舞の奉納があり、やがて神輿は本社まで戻り神事が終わります。
玄米をご神体にするなど、この祭りは農耕儀礼のひとつだったと考えられます。伝承会により、古いしきたりが守り続けられ、これらの神事は県の無形民俗文化財に指定されました。